経営状態の悪化にはさまざまな要因が考えられます。
市況の変化や人材の流出、 キャッシュフローの悪化など多岐にわたるでしょう。 要因のなかには不可抗力なものもあり、赤字になるのが仕方ないケースもあります。
大切なことは、経営状態が悪化したときにどのように立て直していくかです。
この記事では経営の立て直し方をテーマに、経営状態を立て直す方法や経営の立て直しに成功した会社の事例について解説していきます。
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目次
会社は必ず立て直しが必要?
最近は赤字でも先行投資を優先させ拡大していくベンチャー企業が目立ちますが、本来は、どの会社であっても最終的には黒字の状態にすることが理想です。
赤字の状態が長い間続くのは好ましくありません。そうはいっても、事業は市況の変化や会社の状態などさまざまな要因で変動するため、常にうまく進むとは限りません。
ここからは会社の立て直しが必要な状態かどうかについて赤字という観点から解説していきます。
赤字会社の数
赤字経営をしている会社はどれくらいあるのでしょうか。
令和3年6月に発表された、国税庁の会社標本調査によると、令和元年度、連結子法人を差し引いた法人数275万8,420社のうち、 欠損法人(赤字の会社)は全体の61.6%である169万1357社にのぼります。
(出典:国税庁「令和元年度分 会社標本調査」)
ここ10年の推移から見て欠損法人の割合は下がっているとはいえ、直近で全体の約3分の2の法人が赤字経営をしていることがわかります。
良い赤字とダメな赤字の違い
赤字経営と聞くとよくないイメージですが、赤字は悪いと一概にはいえません。
赤字になる理由はさまざまです。 黒字を目指していたのに赤字になってしまっている法人もあれば、意図的に赤字にしている法人もあります。
つまり、赤字には良い赤字と良くない赤字があるのです。それぞれにはどのような違いがあるのでしょうか。
いい赤字の例として挙げられるのは、 新事業や既存事業の成長に資金を先行投資して赤字になっている例です。 Amazonはその代表例といえるでしょう。
Amazonは創業以降、システムや人材、広告費などに成長資金を投資してきました。 そのため、赤字となる借り入れも増える一方で、それに比例して売上も増えているのです 。
もちろん、このやり方が常にいいわけではなく、赤字の状態を解消できず潰れてしまう会社も少なくありません。
しかし、創業フェーズや会社の拡大フェーズに莫大な先行投資をして、さらなる成長に臨む会社は少なくありません。将来の成長のためにあえて赤字の状態にするのは立派な経営戦略です。
また、節税目的であえて赤字にしているケースもあります。
会社に利益が出るとその利益に対して約30%の法人税が課せられます。それを避けるために、役員報酬を高額にしたり 、法人用の保険に加入して保険料を損金として計上することにより、利益を抑えている会社は多いでしょう。
このように、目先の決算を赤字にすることで、 将来の売上を増やすことを目的とするケースはよくあります。そのため、赤字であっても翌年以降の売上が見込まれている会社は、M&Aでも高く評価される傾向にあります。
一方で、 そもそも利益が出ない構造のビジネスをおこなっている、もしくは業界全体の先行きが明るくないなどの理由で、恒常的に赤字になっている会社は危険だといえます。
売上の単価が低かったり、仕入れコストが高く粗利率が悪化している場合は、抜本的にビジネスの仕組みを変えなくては 赤字の状態を改善するのが難しく、いずれ資金不足に陥り、最終的には倒産するおそれもあるでしょう。
手遅れな会社の見分け方
赤字経営を改善できず倒産する可能性が高い、いわば手遅れな会社はどのように見分けければよいのでしょうか。
ひとつは会社の役員が相次いで退職するような会社です。
このような会社を一概に手遅れとはいえませんが、会社の経営陣である役員は会社の経理事情をよく知っています。 もし倒産を免れないような経営状態であれば、会社を去っていくのは自然なことでしょう。
もうひとつは過剰なコスト削減を実施している会社です。 どの会社でも無駄なコストを削減するために、 日頃から消耗品の無駄遣いを抑制したり、電力の節約を呼びかけるなどはあるでしょう。
しかし、 これまでは支給されていた交通費などの必要経費が出なくなったり、 家賃補助など福利厚生の一部がカットされるような会社は、経営状態が悪化している可能性が高いといえます。
経営の立て直しをするにはどんな方法がある?
将来のため、意図的に赤字経営をしている場合はよいですが、 経営状態が悪化し赤字の状態から長期間抜けられない場合は経営の立て直しが必要です。
ここからは経営を立て直すためにどのような方法が効果的か解説していきます。
リストラクチャリングの実施
リストラクチャリングとは 企業の内容や事業を再構築することを指します。
リストラと聞くと社員の解雇を連想しますが、それはリストラクチャリングの一部に過ぎません。
具体的には、会社経営において不採算事業の規模を縮小したり、撤退することで成長可能性のある事業や、高い収益を望める事業に経営資源を投下することで、事業の再構築を目指すことを指します。
経費の見直し
抜本的な経費の見直しはキャッシュフローの改善につながります。
見直したい経費には以下のようなものがあります。
- 外注費
- 人件費
- 広告費
- 工数
- 原材料費
このなかで最初に削りたいのは外注費です。
内部でもまかなえる仕事をわざわざ外注していないか確認しましょう。 社内のソースが足りないなどの理由で外注をしているケースは仕方ないですが、 資金に余裕がない状態で必要のない外注をするのは控えるべきでしょう。
また、近年は新型コロナウイルスの影響でこれまでと働き方が大きく変わりました。テレワークの推進をしたいという気持ちはわかりますが、 このようなタイミングだからこそ抜本的な経費の見直しをしていく必要があるでしょう。
家賃の減額を見据えてオフィスの移動など大規模なものはいきなりやるのは難しいので、 まずは社員の出社が減ったことにより必要性が下がる消耗品や新聞図書費など無駄な経費を削ることを考えましょう 。
また、経費削減をする際に大切なことは、経営陣だけで判断するのではなく、 現場で働いている社員に耳を傾けながら徐々に見直していくことです。
選択と集中のための事業売却
3つ目は事業の選択と集中です。
「選択と集中」では、成長や売上が見込めるコア事業だけを残し、それ以外のノンコア事業は黒字の状態でも廃止もしくは売却し、利益率アップを目的とします。
また、M&Aにより、ノンコア事業を売却すれば 多額の事業譲渡益が得られます。 自社にとっては必要ないと思われる事業でも、ほかの会社からすればシナジー効果が見込める有益な事業である場合もあります。
ノンコア事業が黒字の状態であれば売却するのは惜しいように感じますが、 コア事業に絞ることによって、 これまでは思いもつかなかった顧客ニーズやアプローチを見いだせる場合もあるので、 選択と集中を視野に入れた経営をおこなっていきましょう。
経営の立て直しに成功した事例
実際に経営難の状態から立ち直しに成功した会社は多くあります。
ここからは、経営の立て直しに成功した会社の事例を3つ紹介します。 なぜ経営難に陥ったのか、そしてどのように経営を立て直したのか注目して見ていきましょう。
経営の立て直し事例1:日本航空
日本を代表する航空会社のJALにも経営破綻の危機がありました。
日本航空株式会社は1951年に設立され、 1987年に完全民営化されてから、航空事業だけでなくホテル事業や教育事業など子会社を設立し事業の拡大を推進しました。
しかし、採算の合わない大型機の導入やほかの事業にも手を広げすぎていたことで、リーマンショックが引き金となり、2010年1月に会社更生手続きを申し立てることになったのです。
その後は、企業再生支援機構の元、金融機関の債権放棄や公的資金の注入により、経営の立て直しが図られました。また、 路線の見直しや不採算事業の縮小、希望退職者による人員削減、子会社の売却により大幅なコストダウンを実現しました。
その結果、2012年3月期に2,049億円の営業黒字を達成し、東証一部に再上場を果たしています。
日本航空は公的機関のサポートを受けつつも、大幅なコストダウンや社員の意識改革を徹底しておこなったことにより経営の立て直しを成功させた企業だといえます。
経営の立て直し事例2:日本テレコム
2つ目の事例は日本テレコムです。
日本テレコムは1984年に設立された固定通信事業者であり、 かつてはJ-PHONEという社名で全国一貫サービスの携帯電話事業を確立しました。
1980~90年代は吸収合併や海外企業との資本提携の実施を経て、順調に売上を伸ばしていました。しかし、2000年にイギリスのボーダフォンに買収されて以降、2002年には固定電話事業の落ち込み、2005年には固定電話サービスへの先行投資失敗が響き、最終的には814億円の赤字に陥ってしまったのです。
その後、2004年にアメリカの投資会社リップルウッド・ホールディングス傘下にあった日本テレコムはソフトバンクに完全買収され、100%子会社となりました。
日本テレコムは、さまざまな企業との間で身売りに次ぐ身売りを経験しましたが、その後ソフトバンクの傘下では、営業強化や積極的なコストカットなどを進め、買収から約3年で、見事経営を立て直し、ソフトバンクグループの収益にも貢献するようになりました。
日本テレコムは優良企業に買収されたことがきっかけで、経営を立て直した企業だといえるでしょう。
経営の立て直し事例3:日立製作所
かつて総合電機メーカーの雄であった日立製作所はリーマンショック後の2009年にグループ存続の危機を迎えており、当時の赤字額は7,873億円でした。
その後、2009年に経営のトップを任された川村隆氏は「選択と集中」と称し、事業の大転換を進めていきます。具体的には鉄道システムなどの「社会インフラ」とIT分野に経営資源を集中させるため、 それ以外の上場子会社を売却もしくは完全子会社化して整理したのです。
この「攻めの売却」により、日立製作所は2021年3月期に過去最高の5,016億円の純利益を叩き出し、 見事にV字回復を果たしました。
この一連のV字回復劇は書籍にもなっており、多くの経営者に影響を与えています。
どの会社であっても、経営難に陥る可能性は多かれ少なかれあるでしょう。もし、経営が立ち行かなくなったときに、どのように立て直すかは経営者の手腕にかかっています。
経営を立て直す効果的な方法にM&Aがあります。不採算事業の売却や、優良企業との合併で経営を立て直した例は数えきれません。ただし、M&Aには専門的な知識や経験が必要です。もし、事業の売却や買収を検討している場合は専門のアドバイザーに相談することをおすすめします。
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