株式を多数保有している人が亡くなった場合、相続にあたって、その会社の株式(非上場会社を前提に、以下「非上場株式」と表記します)の評価額が重要な問題となります。
会社の状況や相続人の属性によっては、非上場株式の評価額が高額となり、相続人となる親族にとって重い税負担となることがあります。また、親族にその会社の事業を承継するつもりがない場合は、現金化しにくい非上場株式の相続を親族が望まないことも考えられます。
今回は、非上場株式の相続税法上の評価や、非上場株式の譲渡(いわゆるM&A)について説明します。
目次
相続税の税額計算の仕組み
はじめに、相続税額の計算の仕組みを簡単に説明します。
相続人が納める相続税額は、大きく次のようなステップで計算されます。
順にみていきましょう。
①課税価格の計算
はじめに、相続税の課税の対象となる財産の金額を確定させます。
具体的には、相続や遺贈により取得した財産に、死亡保険金等のみなし相続財産と呼ばれるものを加えます。そこから、債務および葬式費用を差し引き、相続開始前3年以内に被相続人(亡くなった方)から贈与された財産の価額を加えて、相続税の「課税価格」を計算します。
なお、課税価格の計算は相続人ごとに計算し、その後、各相続人の課税価格を合算します。
ここで、相続や遺贈により取得した財産の価額(時価)がいくらであるかを決定することが非常に重要です。これを「財産評価」といいます。
この財産評価は、国税庁の作成している「財産評価基本通達」に基づき行われます。非上場株式の評価もこの財産評価の一項目ということになります。
②相続税の総額の計算
次に、①で計算した課税価格の合計額を基に、「相続税の総額」の計算を行います。具体的には、まず課税価格の合計額から「遺産にかかる基礎控除額(注)」を差し引き、「課税遺産総額」を算出します。
(注)遺産にかかる基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
⇒法定相続人が2人の場合:3,000万円+600万円×2=4,200万円
この場合、課税価格の合計額が4,200万円以下であれば相続税はかからない
続いて、課税遺産総額に各法定相続人の法定相続分を乗じて、各法定相続人の「法定相続財産」を算出します。課税価格の合計額に占める各相続人が現実に取得した財産の割合ではなく、民法が定める遺産割合である法定相続分(詳細は割愛)を乗じるところがポイントです。
そして、この各法定相続人の法定相続財産に相続税率を乗じて合計した金額が「相続税の総額」となります。
③各人の相続税額の計算
最後に、②で計算した相続税の総額に、課税価格の合計額に占める各相続人が現実に取得した財産の割合を乗じて、各人の相続税額を算出します。
実際の納付税額は、そこから各種の税額控除などを加味して算出します。
非上場株式の評価
会社の経営者(株主)の相続の際、その課税価格の計算上、非常に重要となる非上場株式の評価の方式は、次のように区分されます。
【非上場株式の評価方式】
評価の方式 |
備考 |
|
原則的評価方式 |
純資産価額方式 |
一般的に評価額が最も高い |
類似業種比準価額方式 |
純資産価額方式よりも評価額は低いことが多い |
|
併用方式 |
純資産価額方式と類似業種比準価額方式を一定の割合で併用 |
|
特例的評価方式 |
配当還元方式 |
一般的に評価額が最も低い |
大きな考え方として、株式を保有する目的が、会社の経営権を得ることである場合には原則的評価方式が適用され、単に配当を期待して所有する場合には特例的評価方式が適用されます。
このため、経営者の親族が相続人となる場合、評価額の最も小さくなる特例的評価方式(配当還元方式)で評価できる場面は限定的であり、原則的評価方式の中のいずれかの方式で評価する場面が大半です。
なお、いずれの評価方式を適用すべきかどうかは、次のようなポイントの組み合わせにより決定されます。
- 評価の対象となる会社が、「一般の評価会社」に該当するか、「特定の評価会社(株式や土地が資産の大半を占める会社など)」に該当するか
- 株式を承継する者が、「同族株主のいる会社の同族株主」に該当するか否か
- 評価の対象となる会社の会社規模(会社の従業員数や総資産価額、取引金額で判定)が、「大会社」、「中会社」、「小会社」のいずれに該当するか
非上場株式の譲渡(M&A)も検討しよう
M&Aには事業承継タイプという手法もあります。非上場株式においては非常に有効なので、解説します。
親族に事業承継する意思がない場合はどうするの?
経営者の親族に会社(事業)を承継する意思がないならば、非上場株式よりも現金などの他の財産を相続させる方が望ましいといえます。しかし、会社の廃業を選択するとなると従業員の雇用が失われてしまい、取引先にも迷惑をかけることにもなってしまいます。
このように、会社の後継者が親族や社内に見当たらない場合に現経営者にとって有用な選択肢となるのが、事業承継タイプのM&Aです。
M&Aというと、従来は大企業が行うものというイメージが持たれがちでしたが、昨今では中小企業におけるM&Aも一般的になってきました。M&Aにより信頼できる第三者に経営を任せ、廃業を避けることで、従業員の雇用や取引先との関係を維持することができるのです。
M&Aの手法には、株式譲渡や事業譲渡などがあります。以下で、最もシンプルで手続き負担の少ない株式譲渡のケースを説明します。
株式譲渡の際の譲渡価額や税金の取り扱いは?
第三者への株式譲渡の場合、非上場株式の譲渡価額は、前述の財産評価基本通達の規定に基づく評価額と同じである必要はありません。
お互いが合意した価額であれば、たとえ通達に基づく評価額と異なる金額であっても、基本的には妥当性について税務署から指摘を受けることはありません。財産評価基本通達は、あくまで相続税や贈与税の算定上必要な財産評価の指針です。M&Aのように、会社の将来価値を鑑みて行われる第三者との取引にまで適用されるものではないのです。
非上場株式を譲渡した場合、譲渡価額から株式の取得費などを控除した譲渡益に対して20.315%の所得税などの税金が課されることになります。なお、この譲渡益は、事業所得など他の所得区分の赤字と損益通算することはできません。
以上、相続税の仕組みや非上場株式の評価方法、M&Aの売り手の取り扱いなどを概観してきました。実際には、上記で触れていないさまざまな留意点が存在しますので、非上場株式の評価やM&Aについて検討する際は、専門家にご相談ください。
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